どうしようもないとき

人生にはどうしようもない時というのが、どうやらあるらしい。

そんなことは随分と前から知っていて、それを否定し尽くそうと努力してきたけれど、やっぱりダメだなって時はどうしようもなくある。手をつくしたけれど、どうしようもないこと。もしくは手さえ尽くせなくて、どうしようもないこと。そんなことがやっぱりあるように思う。

そんな時はもう受け入れるしか選択肢はないわけだけど、その受け入れ方はたくさんある。僕はこの文章を過去の自分に向けて書いているし、未来の自分にも向けて書いている。

未来の自分がこれを読んで、過去の自分、やるじゃんって思ってくれたら嬉しいな。もしくは、なんらかの奇跡的なことで過去の自分が勇気づけられたらそれは、もっと嬉しい。

いずれにせよ、僕はどうしようもない時にどうするかってことを考えている。

絶望したり、泣いたり、悪夢にうなされたりするのは受け入れ方とは違う。それはただの反応なので、まるで生体実験のモルモットでも観察するように、自分から少し遠ざかって痛みを軽減するのがよいと思う。もちろん、それができるのは、どうしようもない時ではない時なんだけど。

どうしようもない時というのは、その言葉からして(例えばカタストロフが予測不能であるように)どうしようもない。だからどうしようもない時というのは、ほんとうにどうしようもない。

急に話が変わるようだけど、最近、バタイユの「呪われた部分」を読んでいる。そして指導教官の先生はなんども、この本はバタイユが「呪い」を解こうとして書いたのだと言っている。そして僕もその読みが正しいと思っている。けれどこの読解は「呪われた部分Ⅰ(消尽)」の最終章に依拠している。

つまり、バタイユは自己意識の話を唐突にはじめる箇所だ。それまで経済政策について論じていたかと思うと、最後の最後に自己意識、自分の意識のあり方に言及する。良くも悪くもバタイユ的だと思う。けれど、バタイユはこれを書いた時、きっとなにかを掴んでいた気がしている。

その「なにか」というのはきっと言葉にするとすごくチンケな代物になるんだろうけど、とっても大切ななにかだったのだろうなって思う。そのなにかについて、今の僕には書けない。一生書けない。

いずれにしても、バタイユは最後の最後で、意識のありよう、もっと砕いて言えば捉え方について断片的な記述を残しただけだ。この態度はストア派に似ているなとも思うし、内的体験に基いているとも思う。

でもここにどうしようもない時の最後の一手みたいなものがあるような気もする。

チベットの仏僧が「幸福になりたくない人はいない」と言っていたけれど、そのくらいプリミティブなレベルにおいて、どうしようもない時に対処する方法はあるじゃないかと。

「どうしようもない」という事実自体は変わらない。しかし、その事実から少しでも遠ざかることはできると思う。だからこれはただの対処療法だ。僕は対処療法を根本治療よりも優位に考えている。たぶんそれは僕の経験則だから根本療法を優先する人々にしてみれば、場当たり的だろう。

けれど、野戦の軍医はたぶん対処療法を優先する。

どうしようもない時というのは、野戦のただ中に居る時に生じる。だから対処療法をまず施して、次に根本療法を模索する。そして僕がいま考えている対処療法は天気のせいにするというものだ。

「今日は天気が悪かったからだ」

なんと無責任な責任転嫁だろう。けれど、どうしようもない時には無責任さなんてものはどうでもいい。責任転嫁だって、逃避手段としては上々だ。とりあえず逃げる。

どうしようもない時というのは、善悪なんてものは小便みたいなものだ。どうしようもない時に最優先するべきは死なないことであり、そのためならなんだってする。でも、その責任転嫁を他人や神みたいなものにするべきではないと思う。

なぜなら、それは転嫁しきれないからだ。それは呪詛となって、巡り巡って自分に戻ってくる。だから責任転嫁の対象はそもそも無責任なものにするしかない。そこで僕は天候を考えている。天候とは日々変化しているから、転嫁された責任は風に乗ってどこかへいってしまう。

もちろん聡明な人たちから、これは根本的な解決ではないと反論を受けるであろう。しかしそれでも、どうしようもない時には根本的解決なんて望めない。そんなギリギリのラインで生存している瞬間、そんな時には無責任な責任転嫁がよいのではないかと思う。

根本的な解決ではないということは悪いことではない。いずれ着手すればいいし、できなければ死ぬだけだ。だから僕は改めて、とてもシンプルだけど、やっぱりどうしようもない時には責任転嫁を推す。善悪や倫理なんてものはどうでもいい。

どうしようもない時は、どうしようもない。それはつまり、「どうしてもいい」ということじゃないかな。

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